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対ロシア経済制裁の失敗を認めよ

エマ・アシュフォード ケイトー研究所客員研究員

Not-So-Smart Sanctions
―― The Failure of Western Restrictions Against Russia

Emma Ashford ケイトー研究所客員研究員。専門はロシア、サウジ、ベネズエラ、イラクを含む産油国の政治。ロシア、中東産油国の政治と外交など。

2016年3月号掲載論文

「ロシアに政策変更を強いる」という、経済制裁の最大の目的に照らせば、制裁は完全に失敗に終わっている。モスクワはウクライナから手を引いていないし、近く手を引くとも思えない。むしろ制裁は、ヨーロッパの経済利益を傷つけ、アメリカの経済利益や地政学的利益にもダメージを与えている。ターゲットを絞った制裁策も、結局は、ロシアのエリート層よりも、民衆を追い込んでいる。このために、「自分たちの暮らしが大変になったのは欧米諸国のせいだ」と考える市民たちは、プーチンを支持し、社会的連帯を強めている。ウクライナ危機を解決し、ロシアの無謀な行動を抑止したいのなら、欧米の指導者たちは、効果のない制裁中心のアプローチを捨てて、むしろウクライナ経済の支援や、ロシア軍の近代化阻止、ヨーロッパのロシアエネルギーへの依存率を低下させるための措置をとるべきだろう。

  • 対ロ経済制裁は失敗だった
  • ロシアはいかに制裁に対処したか
  • 苦境に陥ったヨーロッパ
  • 失敗を認め、制裁の大半を撤廃せよ

<対ロ経済制裁は失敗だった>

2014年3月に、ロシアがクリミアを自国に編入すると、オバマ政権は、いまや主流となりつつある対抗策、つまり、包括的な経済制裁ではなく、ターゲットを絞った限定的な経済制裁策を発動した。ワシントンは、ウラジーミル・プーチン大統領の取り巻きを中心とする、100人超のロシア人の資産を凍結するとともに、彼らのアメリカ入国を禁止した。その後、欧州連合(EU)は、制裁の対象者をさらに約100人追加した。

金額にすると、制裁はかなりのコストをロシアに強いている。プーチン政権に近いロシア銀行は、制裁発動後数カ月で5億7200万ドルの資産を凍結された。2014年7月にマレーシア航空17便がウクライナ東部で、ロシアが支援する武装勢力によって撃墜されると、ワシントンは、製造業、銀行、国営企業など、ロシア経済の主要部門を対象にさらに厳格な制裁を課した。これによって、ロシアの歳入の半分以上を占める石油・天然ガス会社への投資や技術移転は実質的に不可能になり、モスクワにとっては大きな痛手となった。

現在のロシア経済の窮状を考えると、これらの制裁はかなりの効果があるようにも思える。実際、制裁開始以降、ルーブルの価値は対ドルで76%も低下し、2015年だけでも消費財の価格は16%上昇している。国際通貨基金(IMF)は、2015年のロシア経済は3%超のマイナス成長だったとの見方を示している。

だが現実には、欧米の政策当局は運が良かっただけだ。制裁は、世界的な原油安と重なったからこそ、ロシア経済の苦境に追い打ちをかけることができた。制裁が経済的苦境を作り出したわけではない。ルーブル安も、制裁ではなく原油安の副産物だった。

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